APERUNZ NOTE

aperunz.labの備忘録。ビデオ撮影のこと、漫画のこと。

「労働塊の誤謬」の誤謬

昨年から人工知能界隈の話題が盛んで、ネット囲碁界に突如現れた無名の新人が実はAIだったとか、漫画のような話がリアルでも起こり始めています。

そこでよく議題にあがるのが「人工知能が人びとの雇用を奪うのではないか」というテーマです。

 

人工知能にとってかわられる仕事はこれだ!」みたいな記事がニュースサイトでよく取り上げられてましたね。実際に政府も、議案の叩き台を人工知能に作らせる等積極的な活用が見てとれ、今後軽微な作業は殆ど人工知能が担うのでは?といった予測もあります。

人工知能労働市場に出てきたら失業者はうんと増えるのでしょうか?実は経済学ではこの問いにすでに答えを出しています。

 

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労働塊の誤謬

 

 労働をひとつの塊(例えばアップルパイとか)として考えた場合、人工知能が新規参入した場合、パイの数は限られているので当然食べられない人が出てきます。

しかし労働はひとつの塊ではなく伸縮する可能性を持った市場です。人工知能が新規参入しても、労働力の需要は変化をするので人工知能にとってかわられた人達は別の職に就く。現に人手不足で困っている業種も数多く存在します。労働力の供給が増えれば必然的にそこの需要が満たされていくでしょう。社会は伸縮性があり、労働はひとつの塊ではない、というのが現在の定説です。

 

産業革命とラッダイト運動

 

定説となった背景には過去の事実が証拠としてあるからです。

18世紀末に起こった産業革命は、瞬く間に紡績等の工業化自動化を進め、それまで勤めていた職人達は自分たちの職を失う恐怖心から、各地域で工業機械を壊す暴挙に出ました。これがラッダイト運動です。

しかし製品制作のオートメーション化がかなり進んだ現在においても、失業率や貧困問題が危機的状況に陥ったことはありません。※勿論個別の問題としてはありますが社会が成り立たなくなるほどではありません。

これは生物学的に言うと、蒸気機械が元々の人間のニッチを奪っても、人間は別のニッチに適応することができる、ということです。

 

ラッダイト運動は無駄な運動だったのか?

現代の失業率から見ても労働塊の誤謬は真実だろうし「機械が仕事を奪う」というのは杞憂である、という経済学の定説は誤りとは思えません。

ラッダイト運動はポピュリズムの生み出した愚行だったのだろうかという疑問に対し、ここである仮説を提唱したいと思います。

「工業化が奪ったのは職人の仕事であり、ゆえに労働の喜びと創作の喜びは切り離されてしまった」

 

労働塊の誤謬の誤謬

 

ここに来て記事タイトルへと帰結します。かつての労働は「物を自分の手で作ること」つまり創作の喜びに直結していたと言われています。それは非常に承認欲求を満たす事のできる「生きる」ということにダイレクトに繋がっていたでしょう。

そのなかで承認を得られなかった人達、うまくいかない人達を工業化は救いました。何故なら機械さえ動かせば買ってもらえる商品を創作できたからです。一方で創作で生活していた人達は工業化によって作品の価格は下がり割りを食うことになりました。実際に統計データがないので、断定はできないですが、工業化に一番反対だったのは「生きることと労働がコネクトしていた人」、一番賛成だったのは「コネクトしてない人」だったのではないでしょうか。

 

先ほどのニッチの例で言うと上手く適応できた人は別の職にありつけ、健康に幸せに暮らしていけたかもしれません。しかし適応できなければ淘汰されるのが自然の摂理です。職人的な人ほど適応は難しいのではないでしょうか。

 

またここから先は主観と経験則ですが、ファジーさの許容範囲が広い手づくりが主流だった時代は、発達に障害があっても職人として生きていけたのではないでしょうか。もし仮にそうだとしたら、職人的職業の価値が下がり「一般の企業」に入ることが是とされる現代において生きづらさを感じている人達はは、産業革命の時から徐々に変化した社会変革に適応出来なかった人といえるのではないでしょうか。

定説「労働塊の誤謬」は『職を選ばなければ』真であると言えるでしょう。労働流動性の低い日本で、成りたい自分になる!と声高に宣言できれば労働塊は無限に伸縮し、ニッチ探しもスムーズでしょうね。

 

人工知能が奪う仕事は誰の仕事だろうか。

 

これまでは与えられた仕事をこなすだけだった機械は、人工知能の搭載により、判断が可能になりコミュニケーションを会得することとなります。それは定形発達者の得意分野である気がするのです。

最後に残ったニッチがすみやすい環境とは限りません。人生と労働が完全に切り離された時、人は労働を捨てれるのでしょうか。選択の日までに自分の決意は固めておきたいですね。

 

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