APERUNZ NOTE

aperunz.labの備忘録。ビデオ撮影のこと、漫画のこと。

【漫画感想】亜人ちゃんは語りたい/区別と差別、平等に至る本当の道筋

まずこの作品「今週のテラフォーマーズお休みです」のような「亜人」のスピンアウトだと思っていました。まったく関係ないですんね…

 

亜人ちゃんは語りたい(1) (ヤングマガジンコミックス)

 いわば伝承として語られるような存在、「亜人」が人間と共存し学校生活をしていたら…みたいな思考実験のような漫画です。

主人公は教師でありながら亜人に対する興味関心が人一倍強く、マイノリティである彼女らの悩みに答えながら物語は進んでいきます。登場する亜人は吸血鬼、デュラハン、雪女、サキュバスと伝説上よく聞く存在ですが劇中ではあまり生態など詳しくは認知されてません。マイノリティでありながら、人間との共存をはかり暮らしていく彼女らの努力が実っていく様は成長物語として面白いです。

 

共存のためには理解が不可欠である

 

作中吸血鬼やサキュバスはわりと知られた存在として、人間生活に溶け込むための対策が練られています。一方雪女などはまだ未確定の部分が多いため試行錯誤しながら生きていくための方法を探します。

主人公の高橋先生は「自分の好奇心」のためではありますが、亜人達との会話を続けることで、人間との差異はなんなのか、また感情として亜人自身が自分の特性をどうとらえているかを言語化し、お互いの理解を深めていきます。

普段は語られる事のない亜人自身の気持ちと亜人じゃない側の気持ちをすりあわせすることで、結果より良い共生社会が作られていきます。それは例えば「吸血鬼はニンニクが嫌い」というステレオタイプに当てはまらない亜人に対して、本人の『亜人として』ではない特性がが関与していることを突き止めます。それによってより理解を得ることができるのです。

 

区別と差別、そして平等について

 

物語中盤に人間の同級生達が亜人との接し方(本当はもっと仲良くしたい)を話し合っているときに、わりとこの漫画の確信めいたセリフが出てきます。

 

「そもそも亜人は同じ人間なのかな?」

 

とても差別的に聞こえるワードですが、この言葉で亜人と人間の間に理解が芽生え始めます。

要は亜人には亜人なりの特性があり、社会生活に適応するために苦労したりあるいは活用したり諸々の試行錯誤をしている。そこを無視して「まったく同じ評価の箱」に入れてあれこれ考えるのはほころびが出るのではないかということです。そして別の箱に入れたことを前提にして、個人としての悩み、接し方を考える。本来解決の道筋を示すのならばこの方法が正しいはずです。

まず亜人なりの生きづらさ、特性を理解した上で、そこで初めて「何に悩んでいるのか?」にきちんとスポットライトを当てることができるのではないのか。非常に示唆に富んでいると思います。

 

現実のジェンダー論、もしくはアファーマティブアクションについて

 

自分はわりと若い頃から「男女平等社会」に対して違和感がありました。例えば政府の要職に女性が何人いるかでその社会の平等さを測るのは、とても乱暴で危うい方法だと思います。

男女では生物学的に特徴に偏りがあります。同じ運動量でも筋肉は男性の方がつきやすいと聞きますし、マルチタスクをさせたら女性の方がこなすというのもよく聞く話です。また妊娠出産、それに伴うホルモンバランスの変化は女性がしか経験することができません。

あくまでも偏りがあるという事ではありますが、これらがまったく考慮されない状態で社会制度を男女同じように作るのは無理があると思います。

 

本人の属する属性の特徴、またそれに付随する生きづらさはコミュニケーションを経て初めて外部に発信されると思います。まずはそこが共通認識になってから、初めてその人個人の生きづらさに対処することができるのではないでしょうか。

 

雪女と吸血鬼は同じ亜人でも、本人の性格、周りの理解者がいたかどうかでも悩みの度合いが異なってました。それはやっぱりコミュニケーションの量、発信力によっても生きづらさは変わっていくと思います。一人の個人の悩みとして認識するためにまずは特性からきちんと理解する。現実世界でもわりと重要な事だと思います。

 

思考実験としての面白さ、そして今後の展開は…

 

この漫画の面白いところは例えば雪女の伝承に関してきちんと帰納法で実験して仮説を立証していくところです。ファンタジーだからそういうものという思考停止も可能ですができるだけ科学的説明をつけようとする感じ、誠実でとても好きです。

 

漫画自体も亜人ならではの日常や、恋愛模様も発展し展開が面白くなってきました!次巻が楽しみですね!