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aperunz.labの備忘録。ビデオ撮影のこと、漫画のこと。

【漫画感想】「夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない」にみる愛情表現の正解とは

 西崎夏次系作「夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない」読みました。

 

 1話完結オムニバス形式の短編集です。

 詩的で繊細な絵柄でありながら、陰影がはっきりしており、アート系無意味漫画とは一線を画しております。

 意味/無意味のどちらなのか曖昧な表現が多く存在し、それが読者を突き放すものではないのでほどよい没入感があります。

 特に象徴的な表現として「鼻血」がありまして、既存の意味とは別の文脈が与えられています。意味の解離が難解さを導くのではなく、むしろ共感を覚えてしまうのは作者の力量なのでしょうか。

 空気感を味わう漫画でありながら、読後に心に響くものがある。稀有な漫画です。どうぞ。

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以下ネタバレを含む感想

 

 
 主にセンシティブな人間関係がテーマです。対人関係は接近すればするほどに相手を傷つける可能性が増す、という思想のなかでその在りかたに苦悩する人々の話です。ゆえに関係維持のために接近しない。他人を傷つけるかわりに自分を傷つける。対人関係の中でたまるフラストレーションが息苦しさを増大させる。
 関係を壊さないためにした努力がゆえに関係が破たんする、なんてことは現実世界でもままあることです。二律背反に苦しみ、息苦しくなっていく世界。
 話の中でも閉塞感を打破するシーンは象徴的な表現で表されています。「鼻血」は感情的な昂りを表し、そこからやがて共感が導かれていく様は気持ちよくカタルシスが解消されていきます。この漫画には相手を傷つけない、社会的に正解とされる愛情表現に対して、投げかけとしての表現が多々存在します。それは抑圧された自己の暴発として時には暴力的に、エキセントリックにあらわされているので、奇をてらった、やもすればやりすぎな漫画にみられがちですが。読んだ後の感想としてはすがすがしいものがありました。それは決して清涼感という意味ではなく、現実世界では決してできない我儘をフィクションの世界で成し遂げられた追体験のようなものでした。
 
 
 対人関係を壊さないために被ったペルソナを、自暴自棄に投げ捨てた瞬間に人間として気持ちが通じる流れは、不条理な世界の中でも希望をもって良いような。救いがあると思います。
 
 1話立ち読み可能。読んでみてください。